< エロ話の夜 >
6月18日 午後1時
風邪をひいちまった。
睡眠薬を病院にもらいにいったときにうつったんだな。待合室のソファで、酷い咳をしている男性が隣だったし。
それにしても病を治しにいく病院で、病気をもらってきてどうする。
それってさ、新しい恋を見つけるために合コンに出かけ、別れた男とばったり遭遇し厭な気分になるような間抜けな出来事だ。
まあ、そんなことどうでもいいね。
先週は病をおして、飲みまくった。引っ越しが近いため、その作業でなかなか実家に帰ることができない。佑歌に会えない。寂しい。
大阪から酒豪の、スタイリストの三好姐さんも出てきていたしな。
姐さんは二日間泊まり込みで、あたしの洋服の整理をしてくれた。
おかげで予定通りに引っ越しが出来そう。よかった、よかった。めでたし、めでたし。
で、作業を終えたあたしたち--あたし、秘書の神林、ライターの高崎、スタイリストの三好姐さん--は朝の六時まで飲みに飲みまくった。
そうね、一人洗面器一杯くらいは焼酎を。
前日は泥酔し、深夜二時からパジャマでカラオケに出かけ、翌日は段ボールに埋もれた部屋でエロ話に花を咲かせる。
のちほど怒られるので、誰がどの発言をしたのかには触れないが、あたしたちのエロ話はこんな風だ。
酔っぱらった一人の女がいった。
「あたしは名器らしい」
「キモいこというな」
「だって、ほんとうなんだから仕方ないだろ」
「なにそれ、男からそういわれたってか」
「まあね。それも一人じゃないとだけいっておこう」
「おまえ、変な見栄を張るんじゃないよ」
「そうだよ。こっちが指を突っ込んで調べるわけにもいかないことをいいことに、嘘つくんじゃねー」
「てかさ、あたしはいわれたことないから、素直な気持ちで訊ねたいんだけど、それはどんなタイミングでいわれるわけよ」
「そりゃあ、やっぱり終わった後じゃん」
「髪を撫でながら『おまえは名器じゃのう』っていわれるってか」
ぎゃははは、と一同。
「なんか羨ましくねー。そんな男、気持ち悪りぃ」
「エッチの作法としては、ぎゅっと抱きしめて『愛してる』というのが正しいんじゃないか。『幸せだなぁ』とか」
「え? おまえ、そんな甘ったるいピロートークしてんの? おまえが? 気持ち悪すぎて悶絶しそう」
あたしたちのエロ話は、誰か一人の発言に、他の三人が気持ち悪いとこき下ろすのがお約束だ。
それにしてもなにが楽しいのか。こうして文にしてみると、くだらなさ満点だ。
酒の力って怖いなぁ。
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ぜひ、読んでね。読んで感想聞かせてね。